左から:ディレイン・イースティン、ジョン・コックス、トラヴィス・アレン、ジョン・チャン、ギャビン・ニューサム、アントニオ・ビヤライゴーサ(右手に拡声器)出典:Leafly
今年初めに行われたカルフォルニア州知事候補トップ6名による公開討論会ではまさに「真実の瞬間」ともいうべき状況になりました。
「はっきりさせましょう」スペイン語系テレビ局ユニヴィジョンのキャスターであるジョージ・ラモス司会者がきりだしました。「今までに大麻を使用したことのある方は挙手願います」
州知事候補者に聞く。今までに大麻を吸ったことはあるか?
司会者に「今までに大麻を使用したことがあるか」と質問され、勢いよく手を挙げたのはアントニオ・ビヤライゴーサ氏。「少しじゃなくて、飲み込むように吸ったよ」
複数の手が挙がりました。前ロサンゼルス市長のアントニオ・ビヤライゴーサ氏は真っ先に力強く手を掲げ、そのまま高々と挙げ続けました。ジョン・チャン州政府財政局長はそっと顎の辺りで手を止め、その後ディレイン・イースティン前州教育省長官が遅れて挙げました。
共和党の有力候補、サンディエゴ出身の実業家ジョン・コックス氏とハンティントンビーチ州議会議員のトラヴィス・アレン氏の2人は挙手しませんでした。民主党の有力対立候補ギャビン・ニューサム州副知事も同様です。ギャビン氏は2016年のカルフォルニア州における娯楽用大麻解禁法案可決を勝ち取った、元サンフランシスコ市長です。
投票日目前になって娯楽用大麻解禁の支持を表明したビヤライゴーサ氏は勝ち誇ってこのように発言しました。
「少しなんかじゃなくてね」聴衆からの歓声と笑いを誘いつつ続けます。
「飲み込むように吸ったよ」
ニューサム氏 VS その他
その場を制したビヤライゴーサ氏でしたが、ジェリー・ブラウン市長の後任を決める今回のカルフォルニア州知事選において実際に大麻解禁支持者を強力な後ろ盾にしているのはニューサム氏でした。
ニューサム氏によれば一度も大麻を摂取したことはなく、地元紙の取材にかつて「(大麻は)大嫌いなんですよ。我慢できない。」と答えています。しかし大麻解禁法案を巡っては「大麻の合法化は社会的正義だ」と説き躍進したのです。
6月5日実施予定のカルフォルニア州予備選挙前の世論調査によれば、ニューサム氏優勢と伝えられています。さらに予備選を制した上位2名の候補者は出身政党に関わらず11月の選挙へと駒を進めます。(ニューヨークタイムズ アダム・ナゴーニー記者による解説記事あり)ニューサム氏はビヤライゴーサ氏の1000万ドルに対して2600万ドルもの資金を調達済み。ロサンゼルスタイムズ紙の分析によれば2017年にニューサム氏が大麻産業界から受けた支援金は30万ドル、一方でビヤライゴーサ氏は5000ドルにとどまり他の候補者に至ってはゼロだと言われています。
カルフォルニア薬物政策会議の大麻問題に関する選挙論評によればニューサム氏、ビヤライゴーサ氏、チャン氏、イースティン氏の4名の民主党候補者は大麻政策の改革支持の立場をとっています。右派で有名な大麻支持派の共和党下院議員ダナ・ローラバッカ―氏とは異なり、薬物政策会議によると共和党候補者のコックス氏とアレン氏は改革反対派であり「どうかしている」と評されています。
「州知事選挙は4名の有力な民主党候補者と2名の保守反動主義的な共和党候補者の動きが注目される」というのが薬物政策会議の見解です。
カルフォルニア州知事選有力候補者の大麻政策とその他の争点は以下の通りです。カルフォルニア大学政策研究所による最新の州規模の調査を元に、下位からの予想順としています。
第6位 ディレイン・イースティン 民主党
略歴:トップ6名唯一の女性候補。70歳。1995年-2003年 カルフォルニア州教育省長官。1986年-1994年 州議会議員。現在カルフォルニア州の学校改革団体の会長。
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活動方針:カルフォルニア州における医療の単一支払者制度(Single payer health care)支持者。カルフォルニア州居住者のための未就学児を対象としたプリスクールや授業料無償の州立大学への投資を提唱。
大麻政策:全面合法化賛成派。大麻産業の取引を扱いながらも、他業種中小企業への融資も行う金融公庫の設立を支援。娯楽用大麻解禁の際は収益をメンタルヘルス事業へ投資すべきと主張。
発言引用:「カルフォルニアは薬物との戦いに終止符をうたなければいけません。そしてアルコールや薬物も含め、すべての依存症をメンタルヘルス問題として取り上げ、向き合っていかなければなりません。」イースティン氏選挙用ホームページより
第5位 ジョン・チャン 民主党
略歴:中国系移民2世。55歳。4年任期の会計監査官を2期務めた後2014年より州政府財政局長。カルフォルニア州財務担当、カルフォルニア州査定平準局(BOE)税務局出身。
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活動方針:「州の銀行家」を自認しカルフォルニア州が財政難から一転、世界第5位の経済規模を誇るまでになった実績をアピール。カルフォルニア州のユニバーサルヘルスケア制度導入、大学の授業料軽減、気候変動対策などに賛成の立場。トランプ政府の反移民政策には対決姿勢。
大麻政策:昨年カルフォルニア州大麻研究部会を率いた際、大麻産業界と銀行業界の仕組み作りの必要性を中心になって提唱。政策委員会は認可済み大麻事業者を対象とした金融サービスを提供する州主導の信用組合か官民合同の合弁企業の設立を勧告した。
発言引用:「我々は数十億ドル規模の大麻産業界へ、必要とされている金融サービスを提供しようと取り組んでいます。これほどの社会的意義と人々の思いに政府が気づき、動くのを待つのではなく、我々こそが抵抗し続けそして何よりリードしていくのです。」チャン氏報道発表より
第4位 アントニオ・ビヤライゴーサ 民主党
略歴:1872年以来初のラテン系出身元ロサンゼルス市長。65歳。2005年-2013年の2期市長職を勤める。前州議会議員。1998年‐2000年州議会議長。ロサンゼルスタイムズ紙は犯罪率の低下、交通設備投資、学校改革などの実績を評価し州知事選においてビヤライゴーサ氏支持を表明。
ホームページ:: Antonio For California
活動方針:カルフォルニア州の経済的不平等に取組むことが政策の柱。不人気校の学校改革、手ごろな価格帯の住宅建設、移民保護、医療保険制度改革などを実施することで、IT経済の発展に取り残されている人々の生活向上を公約に掲げている。
大麻政策:2016年11月の大麻合法化の是非を問う住民選挙の1週間前に合法支持を表明。「子どもの安全や治安の維持に十分留意されているか、時間をかけて検討したかった」と立場表明に慎重だった理由を話した。5月8日の知事選公開討論会では大麻産業界の巨大勢力から中小企業を保護する必要性を主張。
発言引用:「(大麻合法化に際し)やると言ったことに対して忠実でなければなりません。今起きているような大量の未公開株式や莫大な金利を振りかざして地元企業を締め出すなどというやり方ではない。地元企業そのものにこそ重点を置いていくのです。」5月8日サンディエゴでの公開討論会より
第3位 トラヴィス・アレン 共和党
略歴:ファイナンシャルプランナーでありサーファー。44歳。ダナ・ローラバッカ―氏の地元、ハンティントンビーチ州議会議員3期目。声高な保守派。カルフォルニア州で制定された児童を性的人身売買から守ることを目的として、児童には一部責任を問えなくする法案に関して「児童買春が合法化された」とコメントしたりする誇張表現が時にみられる。
ホームページ:Join Travis Allen
活動方針:トランプ大統領のMake America Greater Again流の「カルフォルニアを取り戻せ(Take Back California)」という選挙スローガンと、全米最悪のギャングと悪名高く構成員の大半が不法移民であるMS-13の写真をウェブサイトにあげ、不法移民や聖域都市(不法移民に寛容な政策をとる自治体の総称)に対抗する移民排斥主義の立場。ジェリー・ブラウン知事が成立させた自動車専用道路建設のためのガソリン税の廃止を支持し、カルフォルニア州におけるドナルド・トランプの後継者としての存在感をアピールしている。
大麻政策:カルフォルニア州における医療用および成人に対する大麻使用を認可する法制度(Senate Bill 94 )に反対した2人の議員のうち1人。大麻合法化、特に成人使用に関しては積極的ではない。
発言引用:「カルフォルニア州の有権者は医療用大麻に賛成票を投じた。そのことは多くの州民たちから理解が得られると私は思いますよ。ガン患者の吐き気を抑えたり、緑内障の治療にも使えたりするのですから。何であれ、大半の有権者はそれでいいという認識なんですよ。しかし今回の娯楽用大麻の合法化はカルフォルニアにとって身の破滅ですよ。コロラド州がいい例ではないですか。」5月8日サンディエゴでの公開討論会より
第2位 ジョン・コックス 共和党
略歴:シカゴ出身。62歳。サンディエゴ近郊のランチョサンタフェ在住。アメリカ合衆国上院にイリノイ州から立候補し2003年、のちに大統領となるバラク・オバマ氏と公開討論会で対決。富豪の実業家。イリノイ州で税務、会社法、相続に特化した法律事務所を設立。スナック食品会社ジェイズフーズの最高財務責任者CFO。
ホームページ:John Cox for Governor
活動方針:トランプ氏からの支持を得ているにもかかわらず、本人はトランプ傘下というよりはレーガン元大統領派であることを盛んに自称している。人工妊娠中絶反対。銃支持。ジェリー・ブラウン知事の不法移民寛容政策や州の交通機関戦略の柱である高速鉄道整備に「無用の公共事業」と強く反対。
大麻政策:大麻の成人使用の合法化には反対。最近の知事選公開討論会において「(大麻)使用者は薬物中毒の入院治療をうけるべきだ」と発言し話題になった。サンディエゴユニオントリビューン紙の追跡取材では「大麻利用者は収容すべきという意図ではない。薬物中毒者は、治療が必要という意味だ。」と発言。
発言引用:「ポルトガル式がいいと思うんですよね。実際に大麻利用者は入院させて薬物中毒の治療をしている。娯楽目的に使っている人を逮捕するなんて考えていませんよ。ましてや医療用大麻もそうですよ。」5月8日公開討論会より
第1位 ギャビン・ニューサム 民主党
略歴:州控訴裁判所判事を親に持ち、ワイナリーを創業。50歳。のちにサンフランシスコ議会議員に立候補。2003年サンフランシスコ市長に当選し任期満了後再選を果たす。2010年カルフォルニア州副知事に当選。
ホームページ: Gavin for Governor
活動方針: 2004年のサンフランシスコ市庁舎の同性カップル結婚式への開放、2016年の弾薬取締り法と大麻合法化の実現など、議論の的になるような社会問題に対しても意欲的に切り込んでいくリーダーシップをアピール。カルフォルニア州における医療の単一支払者制度(Single payer health care)支持者。メンタルヘルスケアの充実および労働者の権利、人権、環境の保護を提唱。
大麻政策:大麻全面解禁の是非を問う住民投票の1年前、合法化賛成派のマリファナ政策検討委員会(Blue Ribbon Commission on Marijuana Policy)の代表者としてカルフォルニア州で最も有力な政治家として認知される。フェイスブック社の初代CEOでありファイル共有サービスを提供するナップスター社の共同設立者でもあるショーン・パーカー氏をはじめとする投資家らの支持をもとに大麻解禁の州民発案をおこす。一部の大麻解禁擁護派からは、全ては知事選のためで解禁法案を自らの政治的野心に利用しているとの批判を受けた。これに対しニューサム氏は解禁に向けた協調体制を先導した功績を主張し、不毛な麻薬撲滅戦争終結への大きな一歩だと公言した。
発言引用:「大麻全面合法化に踏み切ったのは公明正大に取引を行うためです。分別をもち、ルールを守り、不正は許さない。闇取引はもう終わりです。」ニューズウィーク誌インタビューより
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